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神戸地方裁判所 昭和33年(そ)1号 判決 1958年5月14日

請求人 金尚坤

★ 刑事補償決定

(請求人・代理人氏名略)

右請求人からの昭和三十三年(そ)第一号刑事補償請求事件につき、当裁判所は検察官及び請求人の意見を聴いた上次のとおり決定する。

主文

請求人に対し金六千九百円を交付する。

理由

請求人は、同人に対する窃盗被疑事件につき昭和二十四年八月七日神戸地方裁判所裁判官小川四郎の発した勾留状の執行を受け、同日神戸拘置所代用監獄水上警察署に勾留、同月十三日神戸拘置所に移監、同月二十二日窃盗罪により同裁判所に起訴せられ、同月二十六日保釈許可決定により同月二十九日釈放されるまで引続き未決の拘禁を受け、その後公判進行中昭和二十九年九月十七日保釈を取消されて昭和三十二年十二月二十五日神戸拘置所に収監、昭和三十三年四月四日犯罪の証明がないとの理由で無罪の判決言渡を受けて勾留状の効力を失うに至るまで継続して未決の拘禁を受け、同年四月十八日限り右無罪判決は確定したものであり、以上の事実は同被告事件確定記録に徴して明らかである。そうすると、申請人は刑事補償法第一条第一項により刑事補償を請求することができるものである。尤も、同年五月七日附神戸地方検察庁検察官宿利精一発当裁判所宛回答書によれば、申請人は昭和三十二年十二月七日神戸簡易裁判所において窃盗罪により懲役十月に処する旨の判決言渡を受け、同月二十三日控訴取下により右判決確定し、同月二十五日から右確定刑の執行を受け、その後引続いて神戸刑務所において服役中のものであることが認められる。そうすると、昭和三十二年十二月二十五日から昭和三十三年四月四日前記無罪判決言渡により勾留状が効力を失うに至るまでの期間は、刑の執行と勾留状の執行とが競合していることが明らかである。

思うに、右のような場合には懲役刑の執行としては一個の拘禁のみが存在するものと解すべきであるから重複する未決の勾留日数は刑事補償を受け得べき未決の拘禁日数には含まれないものというべきである。蓋し、若しそうでないとすれば不当に申請人に利益を与えることとなるからである。

以上説示のとおりであるから申請人の刑事補償を受け得べき未決の拘禁日数は、当初勾留された昭和二十四年八月七日から保釈許可決定に基づき釈放された同月二十九日までの二十三日間であるところ、同法第四条第二項所定の一切の事情を考慮し、同条第一項所定の金額の範囲内で、右拘禁日数に対し一日金三百円の割合による補償をするを相当と認め、同法第十四条に則り主文のとおり決定する。

(裁判官 福地寿三)

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